病院のチカラを活用したシニアマーケティング戦略

なぜ今、病院に注目すべきなのか?ー医療とシニアマーケティング②ー

前回は、「コロナ流行後、医療の周辺に商機あり」というタイトルで、医療とシニアマーケティングの関係を掘り下げました。今回は医療のなかでも、とくに「病院」という場所に注目する理由についてお話ししていきます。

高齢者が病院を利用するタイミングとは。

高齢者が病院の医療を求めるときは、どんなタイミングでしょう。

それは、思わぬことから病気や怪我をして、身体能力が変化するときではないでしょうか。

程度の差はありますが、高齢になって病気や怪我をすると、一時的に歩けなくなったり、食事が摂れなくなったり、周囲の状況が理解できなくなったりします。入院してすっかり元通りになればいいのですが、治療が終わっても、今までできていたことができなくなったり、日常生活動作が衰えたりすることもあります。そうなると、それをサポートするための新しい生活環境が必要になります。

また、そうした身体能力の変化は突然起こるため、本人や家族は限られた時間の中で、必要なサービスや商品を選ばなくはなりません。

シニアマーケティングの視点からすれば、介護や療養に必要な商品・サービスを売り込む、絶好のチャンスということができます。

立ち遅れるICT環境。
患者と家族のニーズになかなか応えられない。

病院に、介護や療養に必要な商品・サービスを選ぶチャンネルがあれば、患者や家族はちゃんと欲しいものを手に入れることができます。

しかし、病院はこれまで一般企業のマーケットから閉ざされた空間でした。とくにICT(情報通信技術)については、ガラパゴス化(ガラパゴス諸島の生物進化のように、周囲とはかけ離れた進化をすること)と揶揄されるほど、立ち遅れています。
その背景には、患者の個人情報の漏えいを防ぐために、電子カルテが極めてクローズドなネットワーク(院内に限定された専用のネットワーク)の中で運用されてきた事情もあります。

たとえば、退院を間近に控えている患者や家族に、タブレットを用いて介護用品サイトなどを提案できればいいのですが、多くの病院に置いてあるのは、紙ベースの介護用品カタログやサンプル商品のみ。情報の鮮度は低く、情報量も限られています。

また、医療と介護の間に、保険制度などの壁があることも、在宅療養を始める人々に不利益をもたらしています。病院のスタッフに在宅療養について相談したくても、それに応えられるスタッフの数は限られています。

地域包括ケアシステムという時代の変化。

これまでICTを含めて閉鎖的だった病院ですが、ここにきて大きな変革の時期を迎えています。

それは、国が進める地域包括ケアシステム(※)の実現に向けた動きです。

地域包括ケアシステムがめざす社会(人々が病気を抱えても、住み慣れた生活の場で療養し、自分らしい生活を続けていく)には、地域の医療・介護の関係機関が連携して、包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供を行わなくてはなりません。そのために、病院・介護施設といった組織や専門職の垣根を超えた協業体制づくりが急ピッチで進められているのです。

たとえば昨今は、病院スタッフと在宅医療分野のスタッフがWeb会議を通じて情報共有するといったコミュニケーションのシーンも見られるようになってきました。それは、図らずも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大がもたらしたICTの進化ということもできます。

※地域包括ケアシステムは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が切れ目なく一体的に提供される体制のことです。

医療と生活を繋ぐプラットホームづくり。

 地域包括ケアの実現に向けた、医療と介護の協業体制づくりと時を同じくして進められている、新しい取り組みもいくつかあります。

 たとえば、アメリカで発展した概念である、ディジーズ・マネジメント(疾病管理)。これは、主に慢性疾患患者の治療を改善するプロセスで、患者が最新のエビデンスに従って治療を受けることができ、生活習慣を改善できるように支えていくもの。医療・介護に関わる多施設・多職種によるアプローチが不可欠です。また、外来の時点から患者の入退院を支援するPFM(ペイシャント・フロー・マネジメント)に力を注ぐ病院も増えています。これは外来から入院、退院、療養生活まで、患者の病気が回復していく過程を、医療・介護に関わる多施設・多職種が連携してサポートしていくものです。

 このように疾病を管理したり、入退院の流れを管理したりする取り組みを通じて、病院は地域の医療機関や介護施設との連携を強力に推進しようとしています。そして、他施設との連携には、ICTのガラパゴス化から脱して、情報通信を活用したオープンなコミュニケーションに取り組むことが不可避になってきました。ただし、そうした病院のチャレンジはまだ始まったばかりです。進取の精神をもつ一部の病院が、これからもっとICTを積極的に活用し、医療と生活を繋ぐ新しいプラットホームをつくっていこうとしているのです。

 シニアビジネスに関わる企業の皆さまが、そこに参画し、ICTを弱点とする病院をリードし、医療と生活を繋ぐプラットホームをつくっていけば、病気とともに生きる高齢者にとってこれほど心強いことはないでしょう。では、そのプラットホームとは具体的にどんな機能を備えるべきでしょうか。次回は、その内容について、もう少し踏み込んでお話ししていきたいと思います。

※参考文献:厚生労働省ホームページ(平成28年3月 地域包括ケア研究会報告書)

画像提供:PIXTA

【WEBセミナー開催予定】黒江 仁の病院広報講座

コロナ禍で離れつつある病院と地域住民との距離感を縮めるにはどうすれば良いか?
病院広報の力で地域とのコミュニケーションを取り戻し、適切な情報発信をしていくための方法を提案いたします。
どうぞお気軽にご参加ください。

詳しく見る

コメントを残す

*